目標とする研究室

2019年9月更新

研究室に来てくれる留学生から聞く話を含めて,古今東西,教員と学生の間には様々な関係性があるようです.学生さんが研究室に来てしばらく経ってから「思っていたのと違う」と感じる,ということが少なくなるよう,教員の側が何を考えているのかについて書いてみます.


教員自身の経験(部活等)

中学・高校時代はサッカー部(高校では「2部」と呼ばれる練習も上下関係も厳しくない部活)でした.大学時代はサッカーと音楽のサークル,社会人になってからは尾張旭市(愛知県)の草サッカーチームに5年,東京都西部の草サッカーチームに5年,在籍しました.これらのサークルに共通する点として,

という良い点と,それと表裏一体の欠点として

という問題があります.特に社会人チームでは継続して地域のリーグ戦に参加するためには構成員一人ひとりの参加意識が非常に重要で,チームを運営する人,参加している人たちから,単に汗をかいてサッカーを楽しむ以上の多くのことを学びました.

教員自身の経験(研究等)

学部4年生で配属された研究室では,助教(当時は助手)の先生が設定した研究テーマに自分の興味のあるテーマを取り込む形で卒業研究を行いました.大学院進学後(修士課程)は,興味を持っていた「ロボットの認識と行動の同時学習」というテーマで研究させてもらいましたが,なかなか思うような形にならず苦労しました(先生方にも苦労をかけてしまったと思います…).博士課程では,RoboCupに参加し,SONYのAIBOにサッカーをさせるためのプログラムを書くことに多くの時間を費やしました.コーディングに関しては,優秀な同級生や先輩・後輩に助けられたことも多々ありました.


研究室の人間関係は?

上記のような経験から,個人的な好みとして(強要するわけではないですが),こうだと良いな,と思うことを書きます.(うまく行かないことも多いですが…)

「教員・先輩の言うことは絶対」ではない

年長者の言うことが常に正しいとは限らないという前提でお互いに話した方が良いと思います.日本人社会には今でもやはり年長者の言うことが重んじられる空気があるので,年長者の側が意識して「物言えぬ雰囲気」にならないように配慮するのが良いと思います.

「価値観の違い」「好き・嫌い」で人を遠ざけない

研究室は趣味のサークルと違い,一人ひとりが研究する場です.しかし人間である以上,たとえとても興味のある研究であっても,「孤独」や「疎外感」を感じながら研究室で過ごすのは大きなストレスです.研究室としての成果を最大化するためにも,一人ひとりができるだけストレスなく(=適度に良好な人間関係を保ちながら)過ごせることも大事だと思います.もしも価値観の違いが軋轢や摩擦を生みそうな場合は,あまりお互いが嫌い合ったり遠ざけ合ったりしないよう,できるだけ教員が仲裁・緩和したいと思っています.

結果を厳しく求めたい

サークル活動と研究室活動の最大の違いは,研究室(・教員)には常に成果(論文・対外発表・特許・良いロボットパフォーマンス等)が求められることです.成果がないと研究費が獲得できず,学生さんに良い研究環境を提供することもできません.しかし,私は上記の経験から「上から強く言う」ことが苦手(された経験も少なく,自分だったらされたくないと思う)です.学生さん,特に大学院生が自ら研究成果を求める姿勢を示してくれることを期待し,それぞれの人の性格にあった良い働きかけをしたいと思っています.

経験(・実績?)のない人が肩身の狭い思いをしない

その人の研究に関する実力や経験は,研究テーマにもよるので同列に比較することはできませんが,自分でも,あるいは周囲から見ても,何となく評価する・される場面が必ず出てきます(サッカーチームだと,誰が上手くてだれが下手なのかはすぐに誰の目にも明らかになります).しかし,いったん研究室に所属したからには,卒業するまで構成員です.皆若く伸びしろがあることを含めて,「自分はいまいちだ」などと感じて萎縮するのは誰のためにもなりません.また,研究・仕事で求められる実力にも様々な側面があり,多様な尺度で測られるべきです.仮にこの研究室での活動が上手くなくても,他の場所では能力を発揮するかもしれません.「知識がないので恥ずかしくて人に聞けない」「よくわかっていないがバカにされるのが怖くて質問ができない」ということが起きないように,教員としても注意しますが,大学院生の人にも気配りしてもらえると嬉しいです.

向上心のない人にいて欲しくない

(上記と矛盾しないと思いますが,)人の能力や知識はすぐには変えられませんが,取り組み方は変えることができます.ゼミやミーティングで他の人から出された助言を研究活動に反映しないなど,取り組み方が甘いと感じる場合は厳しく注意します.その助言に対して違う意見を持った・取り入れるのは難しいと思った場合はすぐに意見交換するべきですし,取り入れる価値があると思うなら実行するべき,と考えています.

先輩が後輩にアドバイスをする

論文の書き方,発表資料の作り方・話し方,研究の進め方など,研究室に長くいる学生の方がよく知っていることが間違いなくあります(そうなるべく指導しているつもりです).新入生に対しては「担当院生」という相談役を設けて,資料作成のチェックを中心にアドバイスしてもらうことにしています.相性などもあるので一概に言えないですが,経験者にはベストを尽くして細かく厳しくアドバイスしてもらうことを期待しています.

留学生・マイノリティに温かい

日本の将来のことを考えても,優秀な留学生を多く迎えることは大学の責務だと思いますし,日本人学生にとっても英語コミュニケーションや交流の良い機会になるので留学生を積極的に受け入れています.日本人の学生さんにとっては,日本語の通じる,気心の通じやすい日本人同士と主に仲良くすることは仕方のない面があります.ですが,遠い外国から一人で全く違う文化・社会に来ている留学生の気持ちを想像して(自分が外国に滞在したことがあればそのときに感じた不安を思い出して),そのような人が研究室に馴染むように働きかけてくれる学生さんが多いと嬉しいです.


研究は「学生がやりたいこと」をやるべき?

自分が学生時代に「自分のやりたいこと」を追求させてもらったことを考えると,「○○をやりたい」と言っている学生さんがいたら,それを最大限尊重するのが当然だと思っています.ただ,自分の場合を振り返っても言えることですが,知識や経験の少ない学生の思いつくことは,すでに研究されていることが多いです.また逆に,テーマが遠大・深遠すぎて実力が未知の状態で取り組むにはリスクが大きすぎる場合もありえます.そこで,まずは教員の提案するテーマから「やりたいこと」にできるだけ近いものを選び,その中で自分が追求したい点に比重をかけつつ一定期間研究を行い,自分の理想・目標と現実の進度・できる範囲の関係を見極めることを勧めます.教員はいつも「やってほしいテーマ・プロジェクト」をたくさん持っていますが,学生さんが「何かをしたい」と思っていることがあるならばそれには敏感であるつもりです.